東京高等裁判所 昭和51年(う)1340号 判決
被告人 野部忠男
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判示第二の事実につき、被告人が道路交通法施行令四四条の三所定の数値以上のアルコールを身体に保有していた事実はなく、仮にその事実があるとしても、被告人には酒気帯び運転の故意がなかった、というのである。
しかし、原判示第二の事実は、右所論の点を含め、原判決挙示の関係証拠により十分に認めることができ、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果に徴しても、原判決には、所論のような事実誤認があるとは認められない。すなわち、右証拠によれば、被告人は、原判示第二の日の前日である三月二七日午後九時頃から同一一時すこし前頃までの間、焼き鳥屋で清酒七合位、ビール普通びんに一本半位を飲んだ後、同一一時過ぎ頃自宅に帰って直ぐ就寝し、翌二八日午前六時三〇分頃起床し、頭の痛みと気分の悪さから二日酔いの状態を感じたが仕事のため、原判示の普通乗用自動車を運転して同八時二〇分頃、自宅を出発し、原判示第二の場所に差しかかった際、同判示第三の人身事故を惹起したこと、右事故の通報を受けて事故現場に赴いた尾久警察署の司法警察員荒川寧及び同佐藤孝の両名は被告人が酒気を帯びていると判断し、同一〇時四五分頃、右警察署において右佐藤により被告人に対する飲酒検知が行なわれたこと、その際、被告人はわずかに酒臭が残り、目が充血し、かつ呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたことの各事実が認められ、被告人の原審公判供述中、右認定に反する部分は信用できず、殊に、鑑定人上野正吉の当審公判供述に徴しても、右飲酒検知の結果に誤りはなく、かつ、同供述に前記認定の諸事情を合わせて判断すると、被告人は、原判示第二の日時、場所において、飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら前記自動車を運転することの認識を有していたことが十分に推認できる。なお、道路交通法六五条一項、一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の犯意としては、行為者において前記内容の認識があれば足り、同法施行令四四条の三所定のアルコール保有量の数値についてまで認識している必要はないと解すべきであるから、本件において、被告人の犯意の成立に欠ける点はない。以上の次第で論旨は理由がない。
(石田 小瀬 南)